「カラマーゾフの兄弟」続編を空想する
新書1冊をまるごと使って、「カラマーゾフの兄弟」の書かれなかった第二の小説を空想するという、前代未聞の本。亀山訳の全五巻を読み終わった直後の熱も冷めやらぬまま、一気に読了。
書かれなかった小説を妄想することにどれほどの意味があるのかはわからないが、この妄想はご飯が何杯でもいける程のおいしさと言ったら言い過ぎか。幻のジミヘン「ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン」やビーチ・ボーイズの「スマイル」が登場するグリンプス (創元SF文庫)という小説があったが、筆者はあのSFにも劣らぬ妄想力のたくましさで、アリョーシャやコーリャやリーズを、まるで蛇に足を描くがごとく語り始める。ほとんど「カラマーゾフ」トランス状態と言っていい。このトランス状態を共有するものだけがこの本を楽しめるだろう。セックス、金、暴力、神と悪魔、サドマゾ、社会主義と資本主義、生と死、父と子、テロリズム・・・最終的にはそれら全てがこの小説に入るはずだったのだ。
この中で何度も再びカラマーゾフの名シーンと出会うわけだが、中でもゾクッとくるのはリーザのこのシーンである。
いっぽうリーザは、アリョーシャが帰ると、すぐに、錠をはずし、ドアを少しだけ開いて、その隙間に指をはさみ、ドアをばんと閉めて、思いきり指をつぶした。十秒ほどして指を引きぬくと、彼女はしずかに、ゆっくりといつもの車椅子にもどり、背筋をぐいと伸ばしたまま、腰をおろし、黒ずんだ指と、爪の下からじわじわとにじみ出てくる血にじっと目を凝らしだした。唇が震えていた。彼女は早口に、すばやくつぶやいた。
「ああ、わたしって、なんていやらしい、いやらしい、いやらしい、いやらしい!」
これはやばい。いったいなんなんだドストエフスキーと亀山先生。
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