|
FOOTBALL OR DIE No.1 |
| 勝利への脱出、あるいは敗北への突進 |
| 文/ビワコビッチ(1998.2.2) |
|
「なんて人間はバカなのだろう。」勝利への脱出(1/25テレビ朝日)を見ての感想だ。小学校の時、初めて見て以来3回目か4回目のテレビ鑑賞。見るたびに感想は違うが今回はこう思った。 ストーリーはこうだ。第2次大戦中に連合軍の捕虜チームとドイツ(軍の?)代表チームが、占領下のパリでサッカーの試合を行う。もちろん狙いはプロパガンダだ。しかし連合軍捕虜の首領達はレジスタンスと組んで、試合中に(正確にはハーフタイムに)選手達を脱走させる計画を立てる。試合は圧倒的なドイツ軍優勢の中すすむが、連合軍チームも何とか盛り返す。(ペレが出てる。あとエスパルスの監督やってたアルディレスもこっそり出演。ほとんど台詞はないけど)そして4-1でハーフタイム。脱走をするときがきたが、控室で選手達は「あと45分で勝てるかもしれない」「ここで逃げたら笑い者だ」「やってやろうぜ!」となどと口々に言い合いついに脱走をやめてしまう。そして後半。試合は勢いづいた連合軍のペースとなり40分過ぎルイス(=ペレ)が同点ゴールを決める。しかし負けられないドイツ軍は審判の明らかにヤバイ判定(=昨年の国立10.26 日本 vs UAEよりひどい)によりPKを得る。試合は決まったかに思われた。しかしスタジアムを埋め尽くしたパリの民衆はもう騒然。GKハッチ(=スタローン)に大合唱で声援をおくる。そしてお約束どおりスタローンはファインセーブ!!興奮した観客がピッチになだれ込みドイツ兵達もなすすべがなく、結局選手達は市民の中に紛れ込み脱走してしまう。......というエンディング。 なにがって、せっかくのハーフタイムの脱走を止めちゃうところがバカだ。一生懸命脱出路の穴をほったレジスタンスのおっさん達の苦労も考えてやって欲しい。彼らは抵抗運動に命を賭けてるのだ。たかがサッカーの勝敗で努力を水の泡にされちゃたまらんだろう。また4-1で負けてるのに「勝てるかもしれない」なんて発想自体がおかしい。おまけに審判が買収されてるのはバレバレ。論理的に考える人間なら脱出を選ぶだろう。 しかしみんながみんな、試合を選ぶのだ。ヤンキーでアメフトしかやったことのない(つまり最もサッカーに愛情のない)GKハッチも、イングランド代表だったこともあるキャプテン(=マイケル・ヶイン)と同様に試合をとる。ここに自由か名誉か、とかいった命題を持ち込むことも可能だろうし映画評論家はそう言うだろう。戦争という非人間的破壊行為に対する、人間友愛のシンボルであるスポーツの勝利を描いているとおっしゃる人もいるだろう。しかし僕がみた印象は違った。結局かれらは取り憑かれているのだ。ただボールを蹴りあうサッカーというゲームに。彼らは取り憑かれているためどうしてもゲームに勝ちたくなってしまう。勝って満員の観客に祝福されたくてしょうがない。ただ無心に走って多くのゴールを生み出したいのだ。求めるものは勝利ただそれだけ。 そして観客達も同じ病にとりつかれている。彼らはハッチがPKを防いだ瞬間ピッチになだれ込んでしまう。周りには銃をもったドイツ兵達が立っているというのに。結果的にそれは選手達を脱走させることになるがそんなことを事前に考えて飛び込んだ訳ではない。それはたまたまの行為の結果だし、もっと言えばこの映画を一般的(つまりこれはサッカーでなく映画なのだから)に成立させるためにどうしても必要な構造でしかない。本質はなだれ込んでしまう観客たちの心理にある。 そう、サッカーに取り憑かれてしまった者たちは冷静な判断力(もちろんサッカーの能力としての判断力は重要だが)よりもその病の赴くところを優先する。選手達は試合後立ち上がれないほどに走り回ったり、スパイクの裏めがけて頭からダイビングしたりするし、サポーターは試合の1週間前から徹夜で並んだりする。その先にあるものはスポーツマンシップなんてよう判らんものではない。スポーツによる友愛や希望でもなければ、もちろん国家意識の高揚でもない。(副次的にはあるんだろうけど)先にあるのはただのゴールだ。ボールが白いネットに吸い込まれる瞬間。その奇跡のような時間とそこに至る過程が全てに優先される。そこにはなんの意味もない。ただの物理的な物体の移動。それこそが究極の目的なのだ。多くの人の熱狂を包み込む、巨大な空虚。それがサッカーだ。 なんて人間はバカなのだろう。いや正確にはこの空っぽに取り憑かれている人間は、だ。僕も含めたこれらの人種はどこへ向かっているのだろう?やっぱり空っぽの先には空っぽしか待っていないのだろうか。それともこれはとても素敵なことなのだろうか。ぼくは素敵なことだと信じたい。大島弓子、"バナナブレッドのプディング"の「まあ生まれてみてごらんなさい 最高に素晴らしいことが待ってるから」という言葉がちょっと響いてきた。サッカーという病気に取り憑かれてみたら、なんか素晴らしいことが待ってるような気がしたのだ。もとネタ同様、いやもう本当に全く全然1ミリも根拠はないんだけど。 そんなことを考えた。
|
|
|