FOOTBALL OR DIE
No.21
 怒りをこめて振り返れ!・開幕戦観戦記
文/ビワコビッチ(1999.3.8)

 3月6日土曜日、1999年のJリーグ1部の開幕である。天気も良かったので僕は横浜へと向かうことにした。横浜(F)マリノスとベルマーレ平塚の試合を観るためである。はっきり言ってどちらのチームも特に応援している訳ではない。でもせっかくの開幕の日にじっとしていることは出来なかった。地上波でのテレビ中継も無いし、外は春を間近に控えてとても暖かい。こんな日はスタジアムに出掛けなければならないのだ。多分。

 横浜(F)マリノスを応援する訳にはいかない。なんといっても「F」という意味不明の文字をチーム名称に付けているチームなのだ。元々の印象も良くなかったが、今回の件で更にその印象は悪くなった。対するベルマーレはJ2降格の候補にあげられる程の弱小チームになってしまった。大幅な経営の縮小で、有名な選手を売り払ってしまったせいだ。キャンプもなんと地元湘南の砂浜で行う程追い詰められている。僕はベルマーレ側の自由席で観戦することにする。

 戦力の差は歴然。マリノスはスタメン中、何らかの代表歴のない選手は一人もいない。新外国人の柳相鉄もバリバリの韓国代表だし、その他の選手も現役日本代表の川口、井原、城をはじめオリンピック代表、ユース代表等の経験者ばかりである。年俸の総額もかなりになるだろう。対するベルマーレは代表レベルの選手はほとんど移籍してしまい、かろうじて元日本代表の森山を補強した程度だ。なんといってもこの日の2トップの船越、高田はおそらくまだJリーグで1点もとったことのないフォワードコンビなのだ。新しいアウェイ用のユニフォームはとてもフリューゲルスのそれに似ていてなんだか悲しかった。背中にあった「HOYA」のロゴも消えている。聞けばスポンサーから撤退したのだそうだ。ちなみにマリノスの背中には新たに「ANA」のロゴが入っている。

 たくさんの観客が入った。36214人。各会場の中でトップの数字である。同じ神奈川のチームだからベルマーレ側も沢山入っているかと思ったがそうでもない。ホーム側の自由席はほぼ満席でアウェイ側にまでマリノスサポーターがあふれている。ホーム側2階席のあたりに「「F」を返すのは今!今を逃すと・・・」という横断幕が掲げられている。Fという文字をチーム名から外そうというのだ。マリノスにも常識あるサポーターがいるのだなと思っていたら、なんと試合開始前には無くなって、替りに常にサッカーファンの非難をとも浴びる某日本代表ストライカーの横断幕が掲げられていた。何かの圧力だろうか?少し悲しくなった。

 試合は「失笑」の連続だった。やはりサッカーの見方を分かっている人は増えてきている。ひどいミスにはブーイングすら通りこして失笑が起こるのだ。本来は素晴らしいプレーを見たいわけで、決して笑いたくてスタジアムにきている訳ではない。だからおおっぴらに笑うことが出来なくて思わず出てしまう笑いになる。こんなことじゃダメだとは思いながら、どちらも特に応援するチームではないので僕は余裕を持ってゲームを見ることが出来た。

 マリノスはボールは上手く繋がるのだが、ゴールが近づくと混乱してしまい、よく集中していたベルマーレにボールを奪われてしまう。ベルマーレはバデア、リカルジーニョのドリブルか、船越のヘッドめがけてロングを蹴るしか出来ない。しかしその船越を後ろから手を使って小村が倒してしまう。失笑が起こる。またかよ。ゴールに城が迫る。しかし味方もいないのにカッコつけてヒールパスをしてDFに奪われる。マリノスファンも失笑。ベルマーレのフリーキック。爆発的なキック力を誇るクラウジオ(なんとキャプテン!)が蹴る。しかしボールはとんでもない方向にスゴイスピードで消えていく。会場中が失笑。こんなことの連続だった。勿論いいプレイもいくつかあったが、総じてレベルの低いシーンが多かった。試合はフリューゲルスからやってきた永井のゴールと、永井からの決定的なパスを(何度目かの決定機でようやく)城が決めた2点でマリノスが勝った。あの戦力でよくがんばったベルマーレにはサポーターから暖かい拍手が送られていた。逆にあれだけの選手をそろえて上手く機能しなかったマリノスにはなんとなく白けた拍手が送られていた。

 試合が終わってからの印象は昨年のセリエAの開幕戦、ペルージャ対ユベントスみたいだな、というものだった。スター選手をそろえた強豪と、2部降格を避けるのが目標の弱小チーム。日本にもようやくこういった明確な、強者と弱者のカテゴリが出来つつあるのだ。この日のJリーグは全てホームチーム(咋季の成績上位)がアウェイチーム(咋季の成績下位)に勝利した。しかしこれからは番狂わせも起こるだろう。それがサッカーの魅力でもあるのだから。

 勝敗の行方もほぼ決した後半44分、ベルマーレのクラウジオは劣勢の時のお約束として前線に上がっていた。そこでマリノスの松田と交錯して倒れる。(ちなみこの日のマリノスの守備はお世辞にも洗練されているとは言えなかった。伝統でもある汚さが目だった。)先に挑発したのは松田だった。テレビには彼が「てめえはオツムが弱えーんだよ!」とばかりに頭を指さす姿が映っていたそうだ。キれたクラウジオは松田を突き飛ばす。当然退場。しかし松田は警告だけだった。怒りがおさまらないクラウジオは更に何か叫びながらピッチに戻ろうとする。また殴ろうとするのか?と思ったらキャプテンマークを高田哲也に渡していたようだ。彼は本当に怒っていた。僕のような傍観者には全く理解出来ない程に。2-0で負けていて、後1分しか時間がなくても得点しようと必死になっていた。なんだか今から考えるとそれは涙が出そうな行為だった。初戦で退場になった彼は次節に出場出来ない。バカな奴だ、なんであいつがキャプテンなんだという声も聞いた。しかしきっと「だから」彼はキャプテンなのだろう。放っておけば死んでしまいそうな程弱っているのが今のベルマーレだ。あきらめてしまうのは簡単なのだ。しかし平塚にもフジタ工業にも縁もゆかりもない一人のブラジル人はチームのために熱くなっていた。頭が悪いのかもしれない。しかし僕にはなんだか感動的に思える。開幕戦を見にわざわざ横浜まで行って、ちょっと良かったと思った。





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