FOOTBALL OR DIE
No.22
 「そうか、これがサッカーか」
  ディヴィジョン2開幕戦観戦記
文/ビワコビッチ(1999.3.16)

 3月14日/日曜日、1999年のJリーグ2部の開幕である。天気も(本当に!)良かったので僕は国立西が丘サッカー場へと向かうことにした。FC東京vsサガン鳥栖の試合を見に行くためである。赤羽からバスで10分程のところにそのサッカー場はある。当然行ったことなどない。FC東京サポーターのHPで行き方を見て、午前10時過ぎという普段なら寝ている時間に家を出た。

 初めて降りる赤羽駅から、客のほとんど乗っていないバスに乗り込み着いた場所はさすがに北東京といった風情の静かな通りだった。というか埼玉の匂いがする。とりあえず青と赤のコートを着た、いかにもサポーター然とした人の後をつけて道を歩く。大きな照明灯が見えてきて、さあそろそろスタジアムが見えるぞ、と思った瞬間、唐突にそれは現れた。僕の目の前にはスタジアムと呼ぶにはあまりに小さな競技場、もぎりのおねえちゃんからパンフを売ってるテントから、会場で唯一の売店から、当日券売り場まで全てが視界に納まってしまう、そんな光景が展開されていたのだ。先日行った7万人収容の横浜国際とくらべてどれほどの落差だろうか。なんなのだこの小ささは。1500円で当日券を買う。そして一歩足を踏み入れるとそこはもう競技場の全景が見渡せる場所だった。トイレは全部で3ヶ所。売店1ヶ所、グッズ売場1ヶ所。これが施設の全てである。後は青々としたピッチと、電光ではない掲示板と、選手名を掲げるボードがあるだけ。ベンチはメイン、バックスタンドにはあるもののゴール裏はコンクリートの打ちっぱなしである。少し視線を上に向けると見えるのは青空ばかり。少し早く来すぎたなと思いながら僕はバックスタンドのベンチに寝そべっていた。

 13:00キックオフ。試合が始まるころには超満員になっていた。メインスタンドの年間指定シートのあたりは空席が目立つもののそこ以外は立ち見も出る程だった。それでも入場者数の発表では3600人程。去年の開幕戦の倍の人数だそうだ。いかに小さなスタジアムか分かる。試合はFC東京が岡元とアマラオの2得点で勝利した。東京のサッカーはとても楽しく、強かった。さすが去年のJFLの覇者である。20本くらいはシュートを打っただろう。今年2位以内に入ればJ1への参入が決まる。十分チャンスはあるだろうと思った。

 満員になった原因は簡単だ。FC東京が、東京都で初のプロサッカーチームだからだ。去年までは東京ガスフットボールクラブと呼ばれていたこのチームは、今年から東京ガス以外の協賛企業(ampm、テレビ東京、東京電力など)のサポートを受けて、本格的なプロチームとして活動を始めたのだ。そして「地元」のチームを持てないでいた東京都下のサッカーファンが集結しつつある。

 断言しよう。めったに断言などしないこの僕が。今季の終わりごろ、貧弱な観客収容数の西が丘サッカー場は悲鳴を上げているに違いない。Jリーグ1部の昇格を間近に控えたチームを応援する人々で、あの小さなサッカー場は埋め尽くされるだろう。否、例え優勝争いに加わっていなくてもおそらく観客動員は増え続けるのではないか。それくらいの「熱」を感じた。

 その根拠は?スタジアムの雰囲気である。とんでもない快晴で、試合も快勝だったからというのもあるかもしれないが、この日の西が丘は終始、笑顔と笑い声と歓声がこだまする空間だった。FC東京サポの応援は悲壮感とは無縁で、とにかく楽しい。観客のほとんどは東京の人間らしくほとんど大声など出さないが、ゴール裏だけは違う。彼らは自チームのミスも笑いにしてしまう。FWの選手が相手GKと激突する。すかさず「ゴメンナサイ」の大コール。FC東京の選手がフリーキックの位置をこっそり前の方にずらす。主審に注意される。「バレチャッタ」の大コール。FWアマラオが最高のプレーを見せる。「アマラオ都知事!」の大コール。東京ブギウギ、なんてったってアイドル、ホタテのロックンロールの替え歌。彼らが何か叫ぶたびに場内からは笑いが起こっていた。ちなみに熱烈なサッカーフリークで知られる電撃ネットワークの南部氏も最前列にいたようだ。この日はディフェンスがおそろしく安定していたので全くブーイングなど聴くことはなかった。

 そしてきわめつけは「西が丘オヤジ」である。試合終了後、多くの観客が帰りはじめた頃、突如としてゴール裏から「オヤジ!オヤジ!」の大声援が始まる。何が始まるのかと思っていたら、コーナーフラッグを片付ける係のオッサンがサポーター達の前に立っている。そして「オドレ!オドレ!」のコール。するとなんとそのオッサンは黄色いコーナーフラッグをクルクル回しながらダンスを始めたのだ。場内が大拍手。聞けば、西が丘サッカー場の名物オヤジなのだそうだ。試合にはなんの関係もない。しかしオヤジとサポーター達の交流に代表されるように、会場にはスタッフ、選手、観客が一緒になってこのクラブを育てていこうというムードがあふれていた。きっとこの雰囲気の生真面目なバージョンが横浜FCのムードになるのではないか、などと思った。

 来年の秋、5万人収容の「東京スタジアム」が調布に完成する。もしかしたら、このチームは日本のFCバルセロナになってしまうかもしれない。日本で初めて、大都市でかつサポーターの熱意がチームを鼓舞する、そんな関係を生み出せるかもしれない。横浜、名古屋、大阪、今までこれらの都市が出来なかった地元密着をこのチームはしてしまうかもしれない。正直に言おう。僕は今までサッカーの試合を見に行った中で、この日が1番楽しめた。日本代表が、目の前でワールドカップ予選の試合で勝ったときだってこれほど幸せな気分で家路についたことはない。





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