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FOOTBALL OR DIE No.29 |
| 横浜FCのある風景 |
| 文/ビワコビッチ(1999.6.2) |
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5/29。FC東京と大分トリニータの試合を西が丘サッカー場で見てから、僕は会社に向かい事務用の椅子を6個並べた特製のベッドで土曜の夜を眠った。(どうでもよい仕事だったが家に帰るわけにはいかなかったのだ。)5/30の朝は窓から差し込む強い日差しで目覚めた。そのまま横浜に向かい、三ツ沢球技場に試合開始の2時間も前に到着した。途中に品川駅で、1000円で購入したサングラスをかけて、ぬるいビールを飲みながら13時のキックオフを待った。場内は多くの人で埋まっていった。この日の観客は6000人を越えた。J2の平均入場者よりも多い。J1でも市原や平塚の平均よりも上だろう。JFLなのにこの観客動員である。とてもいい気分だった。 その間にあった前座試合が面白かった。横浜市内の少年サッカーチームの選抜チーム同士の試合があったのだ。栄区選抜と旭区選抜の試合。子供らが広大なピッチを駆け回る。子供といえどもレベルは高く、個人技はいうまでもないが戦術的にもなかなかのものだった。上手くスペースにパスを出す司令塔のポジションの選手や、相手のチャンスを確実に潰す大型のボランチや、巧妙にサイドをえぐるウィングの選手がいた。彼らも大観衆の前でプレーするのは気持ち良かっただろう。得点には大きな拍手が送られたし、決定的なチャンスを逃したときは溜息が響いた。こういう経験をした選手はどうなるのだろう?この中の誰かが将来プロ選手になったりするのかもしれない。 そして大人達の試合が始まった。横浜FCの相手はソニー仙台。胸には「SONY」の文字がかつてのユベントスを思わせる。ごくわずかだがサポーターもいる。彼等は「横浜FC」のコールで、この若くて未来の不確定なチームに敬意を表してくれる。ホーム側の横浜FCサポーターも「ソニー仙台」のコールでJFLの仲間として認めてくれたことに感謝の意を表する。普通なら在りえない光景だ。しかし、フットボールを楽しむものとしては絶対に認めることの出来ない合併事件によって誕生したこのチームは、敵からもその成長を願われているのだ。 試合の方では横浜FCはチームとしての戦術も浸透してきて、圧倒的な力を見せつけた。ゲームを完全にコントロールするが、丁寧に守る相手にてこずってなかなか得点出来ない。ボランチの高木が起点と判断したのか、彼を上手く囲んでボールを前に運ばせない。しかし個人の能力で勝る横浜FCは3トップの右ウィングのような位置取りをした増田を中心に何度も攻め立てた。しかし芝生の上での練習が足りないせいなのか、決定的なシーンでミスをする選手が多く得点は入らなかった。 後半の25分ごろ、有馬が先制点をあげる。その後は結局追加点が奪えず、1-0でタイムアップとなった。しかし力の差は歴然だった。ほとんどがJリーグの経験がある選手で固められた横浜FCに対し、ソニー仙台はやはりJFLのチームだった。横浜FCは固定した練習場の確保、ユース組織の確立などの問題をクリアして一刻も早くJ2に上がるべきだ。リーグ戦はある程度の戦力の拮抗があって初めて成立する。今のJFLに参加出来たことには感謝するべきだろうが、それにはいささか贅沢なスタッフをこのチームは持ってしまったのだ。リトバルスキー監督はいいチームを作っている。このチームはクリーンで、パスを的確に繋ぐ、いかにも日本人好みのサッカーを目指しているようだ。方向性は間違っていない。 試合後、清掃のすんだバックスタンドで、ソシオフリエスタの設立総会が開かれた。会員である僕も参加した。総会ではソシオの規約の承認(郵送による投票で議決)の報告と、役員に立候補している人たちの紹介があった。ソシオに関する質疑応答などは無かったが、ソシオ会員以外の人にも傍聴席を用意するなど、閉じた集会にならないように配慮がなされていた。雰囲気はとても良かった。多くの「大人」がいることが印象深かった。そう、普段報道されるサッカーのいわゆる「サポーター」の顔ではなく、思慮深そうな顔をした大人が多かったのだ。「football or die」のTシャツにサングラスの僕のような若造はちょっと浮いていたかもしれない。ソシオの数はまだ少ない。もっと沢山の種類の「顔」をした人間を集めるようになることがソシオ制度が成功する鍵だろう。最低でも3万円のソシオ会員権はやはり若い人間には辛い。若くなくても金銭的余裕のない人間には辛い。もっと多くのバリエーションを来期には用意する必要があると思った。 そしてそういった議論を受け入れる姿勢が現在のソシオには存在する。会社(横浜フリエスポーツクラブ)とソシオには信頼関係がある。しかしそういった善意にばかり寄り掛かっていると、何かの悪意にさらされた時にはとてもまずい状況になるだろう。そうならないように約束事を早いうちに決めておくべきなのだ。現在JFLの首位を走り、順調に見える横浜FCだが、来年はどうなるのか全く分からない。一度悪意にさらされた人間は(悲しいかな)その現実から多くを学び取る。そのことが上手く生かせれば横浜FCは理想のクラブとして成長していけるのだろう。 僕はアルフィー(横浜FCオフィシャルソングを担当)は好きじゃない。ダサイ格好をしたサッカーおたくも好きじゃない。レプリカユニフォームを着たいと思ったことはない。みんなで声を合わせて、歌に合わせて踊るなんて死んでも出来ない。選手を大声で罵しり憂さばらしにサッカーを利用する下劣な連中は大嫌いだ。しかし、サッカーにはそういった差異を軽々と跳躍する磁場が存在する。その中では多少の差異は気にならなくなる。そんなことより、自分の応援するチームがどう戦うかだけが重要な事柄だからだ。そしてその「場所」を維持する為にはお金が必要なことがよく分かってきた。 試合後のゲート近辺でソシオ総会の開始を待っているときのことだ。横浜FCのレプリカを着た小さな男の子が父親とボールを蹴って遊んでいた。きっとまだ3才くらいだろう。とてもシャイな子で、近くにいたサポーターが「この太鼓叩いていいよ」とバチを渡そうとしたら笑いながら逃げていた。そしてなぜか一人でタバコを吸っていた僕に興味をもったらしく近寄ってきた。何をすればいいのか分からず、彼に負けず劣らずシャイな僕は彼と見つめあってしまった。ボールを蹴ってやれば良かったのかもしれない。でも、それはなんだか本当に涙が出そうになるくらい幸せな時だった。この子が着るユニフォームが無くならないように、僕は来年もちゃんとソシオ会費を払えるようなんとかお金を工面しようと思った。大変なことだ。サッカーを見るということは。
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