FOOTBALL OR DIE
No.34
 衛星放送を捨てよ、スタジアムに行こう
文/ビワコビッチ(1999.7.14)

 まず始めに断っておくと、この文章は普段スタジアムに行くことが困難な場所で暮らしている人に向けたものではない。テレビを通してサッカーを見ることが、現場で見ることより優れている点も沢山あるし、その価値を貶めるつもりは毛頭ない。

 7/3、7/10という2つの土曜日があった。土曜日は通常ならJリーグディヴィジョン1の試合のある日である。しかし現在J1は休止中で、J2とJFLが通常のリーグ戦を行っている。だから通常は日曜日に行われるこのリーグも、この期間は土曜日に開催されることがある。この2つの土曜日に僕は、それぞれJFLの横浜FC、J2のFC東京の試合を観戦した。ともに僕が熱心に応援するチームである。違うカテゴリであるから、どっちをより応援するのだ?という問題にも悩まされることはない(少なくとも今年は。僅かに天皇杯で対戦する可能性があるが)。

7/3 平塚競技場
横浜FC 2-1 横河電機

 対戦相手の横河電機は東京のチームである。今年にJFLに昇格したばかりのチームだが、将来はFC東京に次ぐ東京のJクラブを目指しているチームである。サポーターも熱いし、将来性は十分のチームだ。東京に暮らす僕にとっては少々横浜FCを応援するのは後ろめたい感覚を伴うが、それは仕方のないことだ。それにもし横河電機が将来、FC東京とダービーマッチを戦うようになったら、その場合はむしろ今より明確な「敵」になっているかもしれない。ヤヤコシイ感覚ではあるが、ともかく僕は横浜FCのソシオだ。
 久しぶりに見る横浜FCは、随分チームとしての意思統一がなされているように感じた。「とにかく攻撃的に」という意識が見える。GKの大石はまるでファン・デル・サールのようにボールに対して足下で勝負する。安全第一のロングクリアをあまりせず、丁寧にDFから繋ごうとする。DFは両サイドバックともよく上がる。MF陣はボランチの高木を一人低い位置に遺したまま、かなり前掛りになって、3トップや4トップのような布陣に見えることもある。そうやって攻め続けるから、とにかく見る側には楽しい試合となる。相手が弱いから仕方なくとっている戦術ではなく、リトバルスキー監督の嗜好なのだろう。コンダクターは高木。彼が効率良く守備をし、上手く前線にボールを散らすことでリズムが生まれる。いい選手だと思う。

7/10 江戸川陸上競技場
FC東京 2-0 大宮アルディージャ

 断続的に降った雨のせいもあるのだろうか?あまり良い試合とは言えなかった。大宮は力強い2トップの選手が頑張るだけの攻撃でアイデアに乏しく、ワールドユース代表であり、去年までフリューゲルスに在籍した氏家もさほど目立つ動きはない。東京もベストフォームとはいえず、ただホームとしての勝利への執着だけで勝ったような内容だった。しかし初めて行った江戸川のバックスタンドは見やすく、会場の雰囲気も(雨なのに)良かった。現在2位。川崎F、大分との争いはしばらく続きそうだ。そして、来年J1でこのチームを見られる可能性が、この勝利で何パーセントか高くなったのは事実だ。

 そんな風にして、リーグ戦は行われている。観客動員は平塚が2000人。江戸川が2400人。どちらも雨だったことを考えるとまずまずの結果だろう。しかし人口が多く、交通機関が発達している首都圏開催でこの人数はすこし寂しい結果でもある。
 首都圏に住んでいても、サッカーが好きで結構沢山見る人であっても、実際にスタジアムまで行かない人間のなんと多いことか。野球が好きな人間(もしくはスポーツ全般に興味がない人間)をサッカーに改宗させる、なんてことをしなくても、そういった層を取りこめれば飛躍的に観客は増えるはずなのだ。彼らはサッカーの楽しみ方を知っているし、リーグ戦の仕組みも熟知している。しかし彼らにスタジアムまで足を運んでもらうのは困難なことでもあるのだ。

 そんな仮想的な「彼ら」のことを考えてみた。彼らは昔からサッカーを見ている。弱くて話にならなかった日本代表も知っている。衛星放送で海外のリーグの試合も沢山見ているから、日本のリーグの水準もテレビで見てお話にならないと思っている。そんなものにお金を払って見に行く価値はないと思っているから、当然めったにスタジアムにはいかない。トヨタカップや代表と強豪国の国際Aマッチなら見に行ったりする。でもその後に口にするのは「やっぱレベルが違うよなあ」といった類の論評ばかりだ。彼らは「純粋」な「サッカーファン」だから、日本代表とベルギー代表の試合に平気でレアル・マドリードのレプリカを着てきたりする。どっちのチームにもレアルの選手なんかおらへんやん!というツッコミはなしである。彼らは「高いレベルのサッカー」が好きなのだ。極論すれば身近にあるリーグなどどうでも良い。そこには「低いレベルのサッカー」しかないからだ。

 そして、少なくとも僕は「高いレベルのサッカーが云々」という議論には全く興味がないことが判明してくる。最も大事なことは自分の帰属するチームがあり、そこが勝利することなのだ。今まで述べた仮想的な「彼ら」はサッカーの楽しみ方は知っているかもしれないが「悔しがり方」は知らないのだ。なぜなら衛星放送を通して与えられる「高いレベルのサッカー」はあくまで彼が消費者として対価を支払って得た観賞物であって、自らが参加してその中で喜んだり悲しんだりする「場所」ではない。観賞物である以上、ゲームの結果に必要以上に興奮することはクールな態度ではない。そうやって彼らは際限のない戦術論や技術論を交わし、ビッグクラブを中心とする移籍の動向を気にし、金にまみれたチャンピオンズリーグを頂点とするヨーロッパフットボールを「観賞」し続けるのだ。

 視聴率をとる為の優秀なソフトとしてのサッカーを否定はしない。海外リーグが沢山見られるのは良いことだ。しかしレベルが高いだの低いだのっていう議論は一体何なのだろう?レベルの高いリーグが善なるもので、その他のリーグの選手達は高みに達する過程にいる見習いのような存在なのか?それは断じて違う。まず始めにクラブがあり、そのクラブに見合った選手がいて、そしてその選手達で構成されるチームに見合ったレベルのリーグが存在するのだ。衛星放送を叩き壊す必要はない。しかし「純粋な観賞物」としてのサッカーなど、くだらないと心底思う。スタジアムに行こう。そこには優秀なソフトはないかもしれないが、心を揺さぶるボールの動きがある。


追記:
 土曜日のスーパーサッカー(TBS)は犯罪的だった。江戸川陸上競技場に現れたフィリップ・トルシエを評して「一体何が目的でJ2を観戦?目ぼしい選手もいそうにないのに」とナレーションを被せる。別に日本代表に選ばれる為に東京や大宮の選手はプレイしているのではないし、セレクションの場としてリーグ戦が行われている訳でもない。観客のほとんどはそんなことを微塵も考えずにゲームを楽しんだのだ。何度も書いたことだが、代表の為にサッカーがあるのではない。





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