FOOTBALL OR DIE
No.73
 The Only One I Know
文/ビワコビッチ(2002.9.18)

 ワールドカップが終わってから2ヶ月と少し。まるで平気な顔をして、日々は続いている。Jリーグは余韻もへったくれもない間に再開され、くそ暑い中のゲームをがんがん消化して、1stの優勝チームを決め、即座に2ndが始まった。東京はまたもや去年のようにホームで勝てないチームになるかと思われたが、ガンバになんとか勝ったりして(それはすごくいい試合だった)、上がったり下がったりのテンポが平均化された、実に他人から見たら平凡なリーグ戦を過ごしているのかもしれない。だけど、僕にとってはやはりそれは、1試合1試合に意味があると思えるし、毎試合喜んだり落ち込んだりの繰り返しにも、もう意味があるとかないとかどうでもいいとさえ言ってしまうのだ。

 とてもいい映画を見た。残念ながら日本での劇場公開はならなかったので、DVDで見た。タイトルは「リトル・ストライカー」(原題は「THERE'S ONLY ONE JIMMY GRIMBLE」)。ジミー・グリンブルという、マンチェスター・シティが大好きな少年の、フットボールにまつわるお伽話。こちらのリンクに、ちょっと詳しすぎるくらいの解説(というよりストーリーそのもの)が載ってるので、ビデオを見るつもりのある人はさらっと流し読み程度で。

 簡単に言えば、ジミー・グリンブルという少年の話。彼はユナイテッドではなくシティが好きで、それが原因で学校でも苛められて、且つサッカーは独りで練習している時以外はブルってしまって全然活躍出来ない。シングルマザーで頑張ってるママは頭の悪そうな男をボーイフレンドにする。そんなある日に浮浪者のおばあさんから貰った「魔法のスパイク」を穿いて試合に出たら・・・なんと試合でゴール!ここから彼の運命は全てが良い方に向かっていく。他の登場人物は、ロバート・カーライル演じるジミーの先生(気の弱い元シティーの選手)、お母さんの元恋人でジミーを初めてシティの試合に連れていってくれたハリー、苛めっ子でユナイテッドサポーター、ゴードンなど。実際のサッカーのシーンも良く練習されていて、ジミーがドリブルでゴールに向かっていく様は、多少マンガチックではあるが、心踊る爽快感がある。

 ちょっと出来過ぎのストーリーだから、もしかしたら「映画」という観点だけから見たら、あるいはジミーに決して感情移入出来ない人から見たら、サッカーに興味のない人から見たら、それなりのシンプルな映画でしかないのかもしれない。(映画に興味のない人は言わずもがな)だけど、僕のようにロクにボールも蹴れず、妄想が大好きで、未だに自称ナイーブなサッカーファンなどと嘯いて恥じるようなところがない輩には、そしてかつてマンチェスターのロックにやられた人間には、完璧なサッカーについての映画なのだ。

 冒頭、夕焼けをバックに独りでボールを蹴るジミーグリンブルの姿。そこにリズムを刻むハイハットの音とオルガンの音。シャーラタンズの"The Only One I Know"でオープニング。まずここで痺れる。その他にもファットボーイスリム、ケミカル&ノエル・ギャラガー、ハッピーマンデーズ、イアン・マカロックなどなど。特にジミーが初めて大活躍するシーンで流れるストーンローゼスの"Watarfall"の美しさといったら。

 そう、美しいといえば。ジミーが初めてハリーにスタジアムに連れていってもらった時の回想シーンが素晴らしい。入場ゲート、盲目のパンフレット売りの男からいつものようにパンフを買うハリー。「今日は2部くれ」と言ってジミーにもプレゼント。そして階段を登ると、そこに広がるのは照明に照らされた芝。その青さに、その美しさに、ジミーは完全に心奪われてしまう。青いシティーのマフラーをした人で埋まるスタジアム。シティーのリュックを買ってくれた優しいおじさんハリー。そして決定的なピッチの美しさ。プロリーグのある時代に生まれた今の日本の子供たちも、こんな経験をしてるんだろうか。いや、それはきっと大人も子供もサッカーに心奪われた人にはいつの時点かで必ず訪れているはずの、決定的な瞬間のひとつなのだろう。それはテレビの中の映像だったかもしれないし、自分で完璧なキックをした時の足の感触かもしれないし、スター選手の顔のアップだったかもしれないし、大きな試合の勝利の瞬間、または敗北の瞬間かもしれない。とにかくジミーにとってはそれはスタジアムの階段を登った瞬間に広がった光景だったのだ。そして、そのピッチに自らが立つ為に、ジミーは一人でボールを蹴っていたんだと思う。

 しかし順調に勝ち進むスクールカップも、決勝戦の前に大きな問題が。ジミーは「魔法のスパイク」をゴードンに捨てられる。おばあさんも死んでしまった。前半で2-0と先行される。全く活躍出来ないジミー。だけど・・・(詳しくは映画を見て欲しい)ジミーは理解する。魔法をかけていたものの正体を。

 そしてラスト、全てが完璧なストーリーを描く中、ジミーのモノローグ。「人生はサッカーだけじゃない・・なんてね!」と。

 すっかり少年期を過ぎまくって、僕は人生はサッカーだけと思った時期もなければ、これからも思わないだろう。だから「人生はサッカーだけじゃない」という言葉は夢の終わりでもなければ、冷笑的な諦観への一歩であるとも思わない。ただの現実だ。だけど同時に、これから正に夢の階段を登ろうとしている少年が笑顔で言い放つには、そしてハッピーな映画のエンディングには相応しくない言葉であるのも事実だろう。なんだかその、アンバランスな感じがとてもいいと思った。お伽話はいつか終わり、僕らは「現実」とやらに直面する。それはひどく不機嫌でぶすっとしてる訳ではなく、かと言って笑顔で愛想がいい訳でもない。表情などまったくない空白なのだ。そこで何が起こるかは、サッカーと同じである程度は予想出来ても、結末は分からない。僕が知っているたった一つのことは、「分からない」ということだ。だけどそれは恐れるものじゃなくて、笑顔でおどけながら言い放つものなんだよ、とジミー・グリンブルは言う。






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