FOOTBALL OR DIE
No.75
 Forever And a Day (On a Rainy Day You Can See Forever)
文/ビワコビッチ(2003.8.10)

 この前にこのコラムを書いたのはいつだろう?と思って見てみたら、なんと去年の11月だった。旅行ものシリーズでその直後に行った「鹿島旅行」を書こうと思ったり、天皇杯で「清水旅行」を書こうと思ったら初戦で負けたりして、今年に入ってからも日本女子代表の試合を見た時なんかも、久しぶりに味わったなんとも言えない素晴らしい感情を書き留めておこうと思ったりして、でも結局キーボードを叩くには至らなかった。別に義務とかじゃないし、まあこんなペースになってしまったのも、サッカーが完全に生活の一部になってしまったからなんだろう。そうそう、ついにフットサルも始めてしまったし。なんてこった。

 2003年8月5日。雨の国立競技場。東京が国立競技場で試合をする時はやたらと雨に見舞われる。休暇をとってまで臨んだこの日だったが、朝から仕事でトラブルになり携帯電話を呪う羽目になった。(結局試合後に仕事に向かい、徹夜になった。最低だ。)かなり早くに千駄ヶ谷に着き、祭りの前の妙にはしゃいだ空気を吸う。溢れかえる白いレアルマドリードのユニフォームを着た人々。ベッカムの23番がとても目立つ。その内の数%は普通にレアルが好きな人だろうけど、ほとんどは「ベッカム様」や「宇宙最強スーパースター軍団」や、「超プレミアチケット」というキャッチフレーズに踊らされやすい純朴で愛すべき、低レベルの人たちだ。まあそれもいいんじゃないの別に、と思った。僕の席は東京のソシオが優先的にとることの出来たブロックで、それほど不快な思いはしなかった。スタジアムに入るまで、ブラブラと周囲を散歩して時間を潰した。

 スタジアムに入り、ビールを飲んで、雨があがるのを期待する。入り口で大量に渡されたこの日のスポンサー様からの広告、1500円もするパンフレットを眺める。だけど結局選手紹介の時間になっても雨はあがらなかった。いつもの東京の試合と同じように選手紹介、You'll Never Walk Alone、そして入場。ゴール裏はいつもより何割か増しの声量で、スタンドにいる白い純朴な人たちを圧倒する。きっとピッチの上の白い人たちを恐れさせることは出来ないだろうけど、それでも僕は嬉しかった。入場の瞬間、やはり笑ってしまう。ほんの数日前に磐田でJリーグを戦い、ジュビロとのサッカーの質の差を見せつけられたばかりのこのチームが、ラウルやフィーゴやマケレレと並んでいるんだもの。素晴らしい光景だ。ヘリコプターが上空に出現し、試合球が落とされる。ヘリからアマラオが降臨すると思った馬鹿野郎どもに拍手を。

 そしてキックオフ。東京がプレスで押し込む。文丈がシュートを打ち、馬場憂太はベッカムからイエローカードを引き出し、宮沢は突っ込みまくってシュート、加地はソラリをブロックし、戸田は走り続け、ケリ−や金沢はまるでJリーグみたいにドリブルした。東京が支配する時間帯はそんなに長くは続かなかったけど、それは誰もが予想出来たこと。ベッカムにフリーキックを決められ、パスを綺麗に繋がれ前半終了間際にソラリに2点目を決められた時も、僕は沸き上がりフラッシュがたかれるスタジアムの8割以上とは全く別の感慨にひたっていた。FC東京がレアルマドリードと試合やってるよ・・・

 後半開始。ロベカル、カンビアッソ、そしてロナウド。もう雨にうたれ過ぎて靴もジーパンもびしょぬれで、いいようにレアルにボールを適当に回される時間がやたらと長かったりして、交替で出てくる東京の選手は10代ばかりだけ皆懸命に走っていた。浅利が出場したのは嬉しかった。行け、社員選手!と盛り上がる。東京にミスが目立つけど、あちらもそれ程の圧力はかけてこない。終了間際にロナウドのゴール。おデブちゃんのロナウドにとっても、ヘロヘロの東京ディフェンスは鍵のかかっていない部屋だったのか。後でテレビ放送を見たら、茂庭がロナウドと1対1になった場面で、下がりながら「抜いてみろよ」とばかりに手招きして挑発してた。素晴らしい。ゲームは最後まで戦わなきゃ。そして試合終了。コマーシャリズムに則ったゲームらしく、ベッカムがMVPを受賞し、スポンサー様を笑顔にさせる。僕らは僕らで笑顔で拍手する。

 今は到底かなわない相手かもしれないけれど、堂々とホームチームらしく戦ったこの日の東京を誇らしく思う。彼らのサッカーは卑屈でも臆病でもなく、ガキっぽかったけど精一杯の虚勢は張ってみせた。メディアのベッカム万歳報道なんて気にせず普通のゲームをやってのけた。そして何よりも素晴らしい選手たちと戦える喜びを感じながら最後の笛を聞いたことだろう。国立に集まった23番の白いレプリカを着た無邪気な人々は、それなりに満足して帰っていったことだろう。おめでとう、きっと世界最高レベルのサッカーチームを見ることが出来たんだね、君たちは。

 でも僕は、きっとそんな人たちの何倍も満足出来たんだ。レアルはやっぱり適当な感じで、遠くまで営業御苦労様といったところだけど、東京も選手が揃わない中で集中だけはしていた。そして、いつの日かこのチームと真剣勝負出来る日が来るかもしれない。そんな日を想像して、そしてそうやって少しずつ階段を登って行くんだろうな、と思う。そういう種類の喜びは、きっと完成品の美しさをただ鑑賞するだけの人たちには無縁のものだろうし、別に無縁だって一向に構わないのだけど、僕が求めているのはそんな風な楽しみ方なのだ。

 そう思うと、この日はスタートの日だったんだという気がする。そう、夢はいつか世界一のクラブになること。笑っちゃいけない、あなどってはいけない、バカが見る夢の力を。雨の一日。僕には永遠が見えたと言ったら大袈裟か。スーパースターも、東京の選手も、そしてスタンドの僕らも、同じように雨の中にいた。2003年8月5日の夜のことだ。








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