遺す言葉、その他の短篇
アイリーン・ガン「遺す言葉、その他の短篇」。帯には「超寡作作家が四半世紀にわたり書きためた珠玉の12編」とあったが、その謳い文句に違わぬ面白さだった。ウィリアム・ギブソン、アーシュラ・K・ル・グィンといった蒼々たるメンツからの賛辞はダテじゃない。しかしまあ1976年から書き始めて、やっと2004年に短編集・・というのはなんとも気の長い話で、そういった創作環境が適している人もいるのだろう。
「中間管理職への出世戦略」・・・カフカの「変身」が、(80年代にマイクロソフト社でバリバリ働いていたという)彼女なりの味付けでリミックスされたような短編。会社組織の抑圧とおかしみに、この作者はただ者ではないと思わされた。
「コンピューター・フレンドリー」。サイバーパンクと残酷な童話のミックス。ここにあるのは人間ならざるものの擬人化ではなくて、人間の非人間化である。しかもこれって風刺というより、現代そのものでは?
「ニルヴァーナ・ハイ」。カート・コバーン高校を舞台にした青春(そうか?)小説。マイクロソフト提供の高校生活、グランジを奏でるブラスバンド、コートニー・ラブのような格好をしたチア・リーダー、校歌は「これを生き延びろ」。。。なんて狂った小説だ。
「アメリカ国民のみなさん」「ソックス物語」「遺す言葉」「ライカンと岩」「コンタクト」「スロポ日和」「イデオロギー的に中立公正なフルーツ・クリスプ」「春の悪夢」・・とタイトルを並べただけでも面白いではないか。そして圧巻は若きアイザック・アシモフとロバート・A・ハインラインが登場する「緑の炎」・・・。奇想というより、丁寧に選びとられた言葉で綴られる物語はどれも美しい。そして、創作の秘訣まで書いてある。なんていい人なんだ。
二週間後、シアトルの自宅で、わたしは電話に出た。ギブスンからだった。「きみに創作の秘訣を言うのを忘れてた」と彼は言った。
「そうね」とわたしは言った。「創作の秘密は何なの?」
強調のための一拍。それから、「自分の作品に対して感じる非常に自然で適切な嫌悪に打ち勝つすべを学ぶことだよ」
それは、これまで人からもらったなかで、もっとも役に立つ創作の秘訣だった。
「創作の秘訣」アイリーン・ガン
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