cinema: 2006年12月アーカイブ

先週の日曜日に見た映画。スキャナー・ダークリー。フィリップ・K・ディックの「暗闇のスキャナー」の映画化。キアヌ・リーブス、ロバート・ダウニーJr. ウィノナ・ライダー。監督はリチャード・リンクレーターで、フィルム全編にあの独特のアニメ処理が施されている。

この映画はディックの原作に非常に忠実だ。ディック原作の映画の多くは、最初の着想だけを原作から得て、その後は自由に料理するものが多いのだが、この作品はまさに小説そのまんま。最初のシーンから最後のシーンまで、見事にそのまんまだ。だからこの小説を大切に思っている人であれば、映画を見ても原作の持つバカバカしさや、悲しさが十分に再体験出来る。(原作を読んでない人がどう思うのかは分からない)

この小説は、形式としてはSFでありながらも実際のところディックの他のSFとは違う。現実はひとつだし、ダメ人間たちに救いはないし、どこへも逃げられない。ずーっと色々なことから逃げていた小説家が、唯一現実と向き合うことをやめなかった小説だ、だからがこの小説にはディックのファンたちは「傑作だ」と評価するのである。(ディックのファンじゃない人がどう思うのかは分からない)

この映画は、簡単に言ってしまえばディック信者によるディック信者の為の映画である。。ウィノナ・ライダー演じるドナがいかにもディック趣味(謎めいている/求めても振り向いてくれない)にあふれているところとか、アークター/フレッドが壊れていく「いたましい」というほかない様子だとか、全てのシーンがP.K.ディックの小説を再現するために存在している。

スキャナー・ダークリー

暗闇のスキャナー

もう今週の金曜日で上映が終わってしまう、おじさん天国。ポレポレ東中野で土曜日に見た。

イカと悪夢と性欲と不眠と絶倫と野球と社歌とオロナミンCと、その他ありとあらゆる「この世に生きることのしんどさ」が、なぜか大した仕掛けも魔法もないままに、「生きてるって素晴らしい」に変換されるインチキを目撃した。このインチキを作り出すことが出来るのは、限られた才能や意志のある人だけであり、この映画はどうやらそういった幸運に恵まれたようである。こんなにチープで、しかもホンモノらしい地獄は見たことがない。毎晩のように見る夢が、いつかこの映画のようになる気がして、ちょっと怖いような面白いような気がした。

僕らはこれからズンズン歳をとり、死なない限り悪夢を見て、未来に怯えるだろう。劇場ではいまおかしんじ監督のシナリオ集が600円で売っていた。映画を見ても、シナリオを読んでも、どうやってそれに立ち向かえばいいのかは分からない。ただ、別にそんなことに「答え」はなくてもいいんじゃないかと思った。

上映後には、いまおかしんじ監督×柳下毅一郎(特殊翻訳家)×田野辺尚人(「映画秘宝」編集部)、というトークショーがあって、なんというか映画だけでも十分満足なんだけど、その余韻を壊さない程度のゆるいトークというのが実に良かった。トークの様子はこちら。・・・・「人間の内面なんかなくてもちゃんと映画になるっていうか、内面もお金も何もないけど天国と地獄はあるというのが素晴らしいなあと。」・・・・そうだなあ。内面なんかより、その人の考える「地獄」を見る方が、よっぽどその人のことが分かるってものだ。

↓予告編@YouTube。最高です。本当に「生きてるって素晴らしい」というのがテーマらしい。マジで?

パプリカ

| | コメント(0) | トラックバック(0)

12月10日に見た映画。テアトル新宿でパプリカ

筒井康隆は高校生の頃の僕にとってはかなり特別な存在であり、90年代初頭まではその全作品を読んだと言ってもいいと思うほど(全集も読んだし)好きだった作家だったのだが、ある時期を過ぎてから全く読まなくなった。だからこの原作の「パプリカ」も当然読んでいない。映画を見る限りでは、夢診断とか、クールな美女とか、ちっちゃな大名行列とか、筒井作品おなじみのモチーフが盛りだくさんで、「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」の七瀬三部作などに通じる、正統派に属する作品のようだ。

映画の方は、まあなんというか、長く語るような感想はあまりない。好きな人は見に行って損はないだろうと思う。難解でもないし、絵は面白いし、パプリカ萌えする人もいるかもしれないし、平沢進の音楽はとてもいいし、あえて貶すようなことは特にない。同時にいいと思うところも特にない映画。

今日も今日とてポレポレ東中野でいまおかしんじ特集。

<手錠>
10年にわたる男女の友情っつうか、まあそんな感じの物語。いろいろチャンスはあるんだけど、結局やらない男と女が最後に「やる」っつうのはある種の映画的なカタルシスをもたらす常道だと思うのだが、この映画はなんとなく最初にやっちゃって、またなんとなくやったりして、最後に「やらない」という清々しさがある。

<かえるのうた>
これは今年の1月の公開時にも見たので、1本目が終わったら帰ろうかと思っていたのだが、なんとなく席を立ちたくなくてもう一度最後までみたら、なんかもう素晴らしくって、とても元気が出たのだった。これは女子の友情の物語。部屋に「まんが道」が置いてあるのがいい。(昨日の「それでも」にもまんが道が置いてあったような)「なろうなろう、明日にはなろう。」そして踊ろう、という映画。

手錠(ロスト・ヴァージン やみつき援助交際)

かえるのうた

いやあすっかり会社とかで見にくいブログになっちゃいましたかね?こうゆう映画のことばっかり書くのもいかがなものかと思うが、そういう日々なんだから仕方が無い。つーかここに書いてないこと以外で色々と大変なことだってあるのさ・・・とか言いつつ水曜日。ポレポレ東中野でいまおかしんじ特集。この日は「夫婦」の映画2編。

<愛する>
不妊に悩む奥さんと、優しいながらも若い女と不倫してる旦那。いきなり関西弁のオッサンの「人造人間」が登場する。なんの脈絡もなく登場し、人造人間とは全く関係なく物語は淡々と進むのだが、やっぱり人造人間は最後に奇跡を・・・。人生は夢みる時間よりも、受け入れがたい現実を飲み込むことに四苦八苦する時間の方が長いのだが、ほんの一瞬だけでも美しい朝が訪れるのだ。

<それでも>
海外ではビデオ化もされてるそうで、英語字幕入りのインターナショナルバージョンで上映された。キャベツを切ってると死にたくなる女教師と、その旦那。そして不思議ちゃんな女子高生の三角関係。この映画には怪獣も人造人間も登場しないが、その代わりに(?)、最強の女装オッサンが登場する。襲い来る憂鬱にまともに戦っても勝ち目は無いので、とりあえず意味のないことをやってみよう!ということのようだ。生きるということはこんな感じ。

昼間は浦和レッズの優勝以外にも嫌なことがいっぱいあって、現実逃避モード全開で東中野へ向かう。ポレポレ東中野でいまおかしんじ特集

<デメキング>
原作はいましろたかしの「デメキング」である。未完の怪作という表現がまさにしっくりくる、とんでもない作品。それが10年以上前に映画になっていたというのも驚きだったが、ストーリーも「デメキング」の設定だけが生きているが全くのオリジナルで、不思議なやさしさにあふれた内容だった。80分と成人映画にしては長尺である。監督の舞台挨拶があった。いましろたかしさんに挨拶しに行ったのは、映画をとった後だったそうだ。つまり完全な事後承諾。「二度とすんなよ」と怒られたとか。二人はいまやアユ釣り仲間だそうで、「いましろたかし」「いまおかしんじ」が並んで釣りしてるというのは、どっかの神話のような風景だなあと妙な感慨をもったのだった。主人公が劇中でブツブツとしゃべっているのは、すべて漫画の「デメキング」の台詞。そして原作同様に「未完」こそがもっとも美しい結末である、という気がした。
demeking.jpg

デメキング

デメキング

<にぎって>
主演の黒田詩織がかわいい。前にケーブルテレビで見た成人映画に出ていて、いいわあと思っていた人だったのだが、やっと名前がわかった。富士の樹海をさまようシーンは、ちょっとドキドキした。樹海に行く理由などどうでもよい。命を捨てるつもりなどまったくないのに、樹海に行って道に迷って、ああ俺は死ぬかもしれない、と思うことが重要なのである。

これも先週見た映画。ケン・ローチ監督作麦の穂をゆらす風

えーと・・・カンヌのグランプリです。とても真面目な映画です。だけども、やっぱりケン・ローチはこういう大河ドラマ的というか、時代や群像にスポットをあてた作品よりも、もっと個人に密着した作品の方が圧倒的に面白いなあというのが素直な感想。最近のグチョグチョとリアルに人が死んで行く映画を見た目には、この映画での「戦争」がどことなくぼんやりと見えてしまった・・・というのもある。

でも、自分の資質として向いていないであろう指向の作品も執拗に作り続ける姿勢というのは、やっぱりどこか職人気質というか、どうにも譲れない思いがあるのだろう。

全くこの映画とは関係ないが、『おじさん天国』公開記念・いまおかしんじ特集 R18 LOVE CINEMA SHOWCASE VOL.2がある。見に行きたいのだが、時間が作れるのかが問題だ。というわけで今から仕事。